
「見えない壁」:障害者採用における昇進・昇格の実態と課題

日本では、障害者雇用促進法の改正により、企業に対して障害者雇用の義務が強化され、一定の雇用率を満たすことが求められるようになりました。実際、多くの企業が障害者の採用には積極的に取り組んでいます。しかし、「採用」までは整ってきた一方で、「その後のキャリア形成」、特に昇進や昇格については、まだまだ課題が多く残されています。
たとえば、令和4年に発表された高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査では、障害者の管理職比率がわずか約5%にとどまっているという現実が明らかになっています。
この記事では、障害者採用後のキャリアアップにおける格差の実態と、その背景にある課題、そしてこれから企業がどう向き合うべきかについて、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説します。
データで見る昇進格差
厚生労働省や各種調査によれば、障害者の就業者数は増えているものの、管理職やリーダー職に就く割合は依然として低水準です。たとえば、労働政策研究・研修機構の2022年の調査では、管理職に就いている障害者はほんの一部に過ぎません。
その理由のひとつには、「昇進という選択肢すら提示されない」など、構造的な壁があることが挙げられます。
よく見られる“見えない差別”のかたち
「配慮」の名のもとのチャンス喪失
「体調を考慮して」「無理をさせたくない」といった理由で、責任ある仕事やマネジメントを任せてもらえないケースがあります。一見、優しさに見えるこの配慮が、結果的に本人の成長機会を奪ってしまうのです。
評価の不透明さ
評価制度が一律のため、障害特性に応じた合理的配慮が評価に反映されないことも。結果として、同じ努力をしても健常者と比較して不利な評価を受けてしまうケースが報告されています。
そもそもチャンスがない
「本人が望んでいないと思った」「チームの混乱を避けたい」といった理由で、昇進や異動の打診自体がなされないこともあります。これは無意識の偏見によるものであり、深刻な差別の一例です。
当事者が語るリアルな声
- 30代男性(身体障害):「10年以上同じ部署で働いていますが、昇進の話は一度もありません。上司に尋ねても『今の仕事をしっかり続けてくれればいい』とのことでした。」
- 40代女性(聴覚障害):「役職にはつきましたが、実際の権限も部下もありませんでした。昇進というよりは肩書きだけが増えた感じで、周囲との距離もできてしまいました。」
- 50代男性(内部障害):「自ら管理職への意欲を示したのに、『チームへの影響があるかもしれない』と却下されました。その後、後輩が昇進していくのを見届けるしかありませんでした。」
差別を生む背景とは?
企業側の制度設計や人事方針にも、差別が生まれやすい要素が潜んでいます。
- 合理的配慮=業務制限と誤解されている
- マルチタスクや万能性を求める評価軸
- 制度があっても、現場での理解や運用が追いついていない
前向きな取り組み事例
一方で、障害者のキャリア形成を支える先進的な取り組みも始まっています。
- 昇進評価の多様化:成果だけでなく、チームへの貢献や工夫、課題解決力などを評価に反映。
- 障害者向けリーダー育成プログラム:段階的にリーダー業務を経験し、管理職への準備ができる仕組み。
- メンター制度の導入:障害への理解がある先輩が継続的にサポートし、不安や悩みを相談できる環境を整備。
これから企業に求められること
- 公正な評価制度の導入:一律ではなく、障害特性や努力、成果を多角的に見ることが重要です。
- 定期的なキャリア面談の実施:本人の希望や意欲を正しくくみ取る仕組みをつくる。
- 無意識バイアスに対する教育:管理職や人事担当者向けの研修で意識改革を促す。
- 外部機関との連携強化:NPOやコンサルタントなど、専門家の力を借りて制度の見直しや整備を進める。
おわりに
障害者の雇用が広がる今、次なる課題は「どのように活かすか」。採用だけで終わるのではなく、キャリア形成の道筋も整えていく必要があります。
「障害があるから配慮が必要」といった一面的な視点ではなく、「その人の力をどう伸ばし、どう活かすか」という視点で職場を見直すことが大切です。 障害の有無にかかわらず、すべての社員が公平に挑戦できる環境。それこそが、真の多様性を活かす職場づくりへの第一歩です。