出版業界営業職の転職実態|「本を届ける仕事」のリアル
出版業界と聞くと、「編集」「ライター」「本づくり」といったクリエイティブな仕事を思い浮かべる人が多いでしょう。
ですが、本を実際に読者のもとへ届け、売上をつくっているのは営業職です。
出版営業は、作品の魅力を伝える最前線。
今回はそんな出版業界の営業職に焦点を当て、仕事内容や転職市場のリアル、実際の転職事例を交えながらお伝えします。
1. 出版業界の営業って、どんな仕事?
出版営業の仕事は、「売る」だけではありません。
本や雑誌をどのように広めるかを考え、販促戦略を練り、書店や取次会社と交渉する――いわば“出版の橋渡し役”です。
主な業務内容
- 書店・取次との商談
- 発売前の販促計画づくり
- 店頭フェア・POP展開の提案
- 書店訪問による販売促進
- 在庫・重版の管理
- 電子書籍やECサイトでの販促対応
以前は「取次を通して全国の書店へ配本」という流れが主流でした。
しかし今は、Amazonなどオンライン書店の存在が大きく、営業にもデータ分析やデジタル販促の知識が求められるようになっています。
2. 出版業界の今と営業職の変化
出版業界は「紙離れ」の影響を受けて久しく、紙の出版物市場は1996年をピークに縮小傾向。
2023年時点では約1.2兆円と、最盛期の半分程度になっています。
一方で、電子書籍市場は右肩上がり。
特にマンガを中心に成長が続き、2023年には5000億円を突破しました。
この変化により、営業の仕事も大きくシフトしています。
| 時代 | 営業スタイル | 求められるスキル |
| 2000年代 | 書店営業・取次対応中心 | 人脈・調整力 |
| 2010年代 | チェーン書店への企画営業 | 提案力・企画力 |
| 2020年代 | SNS・電子書籍・データ営業 | デジタル知識・分析力 |
今の出版営業は、もはや“本を売る人”ではなく、
**「コンテンツを広めるプロデューサー」**としての役割が求められています。
3. 出版営業職の転職市場はどうなっている?
出版営業の転職市場は、ここ数年で少しずつ動きが出ています。
新卒採用が減少傾向にある一方で、即戦力となる中途採用が増えているのが特徴です。
(1) 出版社の営業職
講談社・集英社・KADOKAWAなどの大手出版社では、電子書籍や販促部門でキャリア採用が見られます。
ただし、経験者やデジタル販促に強い人材に限られる傾向があります。
(2) 取次・販売会社の営業職
トーハンや日販など、出版流通を支える企業では、出版社と書店をつなぐ営業職が中心。
最近は出版以外の流通業出身者も採用されています。
(3) 出版関連マーケティング・PR職
出版業界に近い広告代理店やPR会社でも、出版経験を活かせる営業職が増えています。
SNSやECを使ったプロモーションが得意な人にはチャンスが多い分野です。
4. 【事例①】紙の営業からデジタル業界へ転身した30代Aさん
中堅出版社で10年間、書店営業を担当していたAさん。
全国の大型書店を回り、フェア提案や新刊販促を行っていましたが、電子書籍の成長を前に将来への不安を感じ始めました。
「紙の本だけを扱っていると、時代に取り残されるような気がして…。もっとデジタルを活かした仕事がしたかったんです。」
Aさんは思い切って電子書籍配信会社へ転職。
今では出版社と連携し、データ分析を活用した販促企画を担当しています。
「本を広めるという点では同じ。でも“勘”から“データ”に変わった。仕事の幅が広がりました。」
出版の経験を土台に、”IT・デジタル業界で新しい形の“出版営業を続ける人が増えています。
5. 【事例②】書店営業から教育業界の法人営業へ
雑誌出版社で営業をしていたBさん(40代前半)は、雑誌広告の落ち込みをきっかけに転職を決意しました。
選んだのは、教育系教材会社の法人営業職。
「出版営業で磨いた“提案力”や“プレゼン力”は、企業向けの提案でもそのまま使えました。
編集的な視点が、商材を魅力的に見せる武器になっています。」
出版営業の経験で培った「企画力」「折衝力」「プレゼン力」は、
教育・広告・人材など他業界でも高く評価されています。
6. 出版営業職が転職で苦戦しやすいポイント
出版経験者が転職でつまずきやすいのは、次の3点です。
(1) 業界特有の商習慣
取次制度や委託販売など、出版特有の構造に慣れすぎてしまうと、
スピードと成果を重視する他業界に馴染みにくいことがあります。
(2) デジタルスキル不足
紙中心の営業では、SNS広告・EC販促・データ分析などの経験が不足しがち。
近年は「出版×デジタル」を理解できる人が求められています。
(3) 年収の伸び悩み
出版営業の平均年収は400〜600万円前後。
大手以外では給与が上がりにくく、転職時に待遇を上げるのは簡単ではありません。
7. 出版営業職が転職を成功させる3つのコツ
(1) 出版スキルを“汎用スキル”に言い換える
出版特有の経験も、伝え方次第で他業界に通じます。
- 書店営業 → 小売・流通営業
- フェア企画 → 販促・マーケティングスキル
- 取次対応 → BtoB調整・交渉力
(2) デジタル知識を身につける
SNSキャンペーンや電子書籍販売などの経験を積むことで、転職市場での評価がアップします。
Googleアナリティクスなどの基礎を学ぶのもおすすめです。
(3) 出版に近い業界からステップアップする
出版からいきなり異業種へ飛び込むよりも、
まずは広告代理店・電子書籍企業・PR会社など、出版に近い業界を狙うと成功率が上がります。
8. 出版営業のこれから
出版業界は確かに厳しい局面にあります。
しかし、「本」から「コンテンツ」へと形を変えながら、営業職の役割は進化を続けています。
これからは、
- SNSデータを活かした販促企画
- 紙と電子のハイブリッド提案
- 海外展開(翻訳・ライツビジネス)
といった新しい営業スタイルが主流になっていくでしょう。
9. まとめ|出版営業の経験は「伝える力」そのもの
出版営業で培ったのは、数字以上に「人に伝える力」。
このスキルはどんな業界でも通用します。
出版の世界で磨いた経験は、業界を越えて価値を発揮できるもの。
他業界にチャレンジしてみませんか?